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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)730号 判決

上告人(原告・控訴人) 郡山信用金庫

右訴訟代理人弁護士 渡辺大司

被上告人(被告・被控訴人) 日本国有鉄道

右補助参加人 国

同 高橋光雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺大司の上告理由一について

原判決が、本件請負工事代金の受領に関する上告人、訴外中央建設株式会社(以下、単に訴外会社という)間の契約は単にその代金の受領を委任する趣旨のものであり、右契約はこれをもって上告人のため右代金債権の上に質権を設定するものとはいえない旨判示していることは、原判文上、明らかであり、原審が右契約に関し認定した諸般の事情のもとでは、右判示は正当である。したがって、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひっきょう、原判決を正解しないでこれを攻撃するに帰するから、採用できない。

同二について

本訴請求が所論の担保契約の成立を理由とするものでないことは、記録上、明らかである。したがって、原審が所論のような事項について判断する必要のないことは当然であり、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同三について〈省略〉

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人渡辺大司の上告理由

原判決は判決に影響を及ぼすこと明なる法令の違背があり且つ理由を附さない違法または、判断遺脱の違法がある。

一、上告人は、原審並に第一審において

発註者の奥書(承認)ある委任状(甲第一号証の如き)を差入れて金員を借用する契約は質権設定又は債権確保のための債権譲渡契約に準ずる法律効果を発生する(即ち債権質と類似の取立権ある無名契約及び債権質に準ずるものまたは担保のための債権譲渡)ものである。

そしてその契約の内容は、工事請負業者(委任者)が、担保のために、そのもっていた工事代金債権の取立権を金融者(受任者)に移転せしめ、委任者自らはその債権を取立てる権利を失う約定をなし、発註者がその取立権移転を承諾することによりその工事代金を受任者(金融者)にだけ支払う義務を負うことにある。

このような契約内容が、その担保としての機能を果しており、また担保の対抗要件または公示方法としての一定の形式としては、工事請負業者と金融者間は解任できない特殊な工事代金受領委任状を発行し、発註者はその契約を承諾する旨の奥書(委任状に)をなし、且つ支払関係帳簿にその旨を登録することにある。

従って甲第一号証は一見すると単に代金の代理受領を発註者が承認したに過ぎない如くであるが、真の契約内容(当事者の意思は)右の如きものである。

旨を主張している(原審昭和三八年二月四日附準備書面、第一審昭和三七年三月一四日、同年五月一六日附準備書面……第一審準備書面は原審においても援用……昭和三八年二月四日附準備書面で)。

ところが、原判決はその理由において甲第一号証の契約は単なる代理受領であり、また乙第一号証の一の第三条及び第三五条が、委任と債権譲渡を峻別して明記しており代理受領と債権譲渡とは法律効果を異にするものであると認定したのみで、その余については全く判断も説示もしていない、即ち、上告人の原審における右の主張事実及び法律的効力に関する主張に対して、全く判断をしなかったか、または判決に理由(上告人の右の如き主張事実及び法律効果を排斥し、且つ右の契約を単なる代理受領と認定した理由)を附さない違法がある、しかもその違法は判決に影響を及ぼすことが極めて明らかである。

二、上告人は原審並に第一審において

甲第一号証の如き委任受領の方式が融資の担保となる(担保的効果の発生)こと、即ち、註文書が委任状に奥書(甲第一号証)して承認することにより担保契約(請負人は註文者に工事代金の請求、受領することができなくなり融資者だけが、請求受領の権限を有し、且つ受領した代金を優先的に自己の債権の弁済に充当することの権利を取得し、また註文者は融資者にだけ工事代金を支払う義務を負担する契約)が成立したものとする事実たる慣習がある。

また、金融の担保にするための解除のできない請負代金取立委任契約(甲第一号証)の内容が、前項の如くであり、註文者がこの契約を承認することは前項の如き義務負担(或は義務負担の意思)であることは事実たる慣習として存している。

旨並にこのような事実たる慣習、または甲第一号証の如き委任状が担保的機能を形成するに至った経緯について主張している(原審昭和三八年二月四日附準備書面並に同準備書面で援用している第一審昭和三七年三月一四日附、同年五月一六日附準備書面)。

ところが、原判決は、この点について全く判断を示さなかった、即ち原判決はこの点について全く判断をしなかったか、または判決に理由を附さない違法があり、しかもその違法は判決に影響を及ぼすことが極めて明らかである。〈以下省略〉

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